1.25.2019

Other fishes collection No.3~香港のカワムツ~

中国南部の一部と香港に分布するCandidia spilurusと呼ばれる魚がいる。
Other fishes collection3種目はそんなCandidia spilurusをご紹介したい。

本種について


コイ目 コイ科 ダニオ亜科 カワムツ属に属する本種は前述の通り中国南部の一部と香港に生息する。
属を見ていただければ分かるように日本のカワムツと同じ属に分類されており、全体的な雰囲気は似ていると言える。
頻度は低いが稀に観賞魚としての輸入がある。

Candidia spilurusの採集


私が本種を確認したのは香港某所の比較的流れの早い河川であった。
生息密度は非常に高く、川に網を浸けて歩いていると勝手に若魚が入ってくるほどである。
同所的にはホンコンプレコ (Pseudogastromyzon myersi)やホンコンリザードフィッシュ (Liniparhomaloptera disparis)などのタニノボリ類やホンコンヨシノボリ (Rhinogobius duospilus)、香港ハナマガリ(Acrossocheilus beijiangensis)などの比較的流水環境に適応した種が生息している


成熟した雄はマス類のように口先が湾曲し、高い体高と相まって非常に迫力のある姿となる。

1.24.2019

Labyrinth Collection No4~スネークスキングラミー~

Labyrinth Collectionの4種類目となる今回はスネークスキングラミーTrichopodus pectoralisについての記事をお届けしたい。


本種について

本種はオスフロネムス科Osphronemidae、ルキオセファルス亜科Luciocephalinae、トリコポーダス属Trichopodusに属するバブルネストビルダーである。
体長25㎝ほどとこの仲間の中では大型であり、現地では食用魚としても重宝されている。


Trichopodus pectoralisの採集

本種を確認したのはバンコク郊外の湿地帯である。

深さは浅いところで10㎝ほど、深いところでも50㎝程度と非常に浅い湿地帯であった。

同所的にはベタ・スプレンデンスBetta splendens、クローキンググラミーTrichopsis vittata、ボララス・ウロフタルモイデスBoraras urophthalmoides、キノボリウオAnabas testudineusなどが採集できた。
アクアショップ等で見る本種は灰色の体色に黒いバンドが入る非常に地味な印象を受ける魚であるが、採集直後の本種は青とも紫とも緑ともつかない美しい色に輝いていた。
今回はこの1匹のみしか採集できなかったが、近いうちに大型の個体を採集し、ここで皆様にご覧いただければと思っている。

また、前述の通り現地では食用魚としてもメジャーなようで、露天などでこのように頭を落とされた本種が半分干されるような形で並べられている光景を見ることができる。

現地での色彩を見るにもっと観賞魚として評価を得てもいい魚であると思うのだが、如何せん水槽できれいに発色させることが難しい。
次回採集時に輸入する予定なので、飼育下で本種の色彩を引き出す方法も色々と試していきたいと思っている。個人的には水質の設定と日光がキモであろうと考えているのだがはたして…。

Other fishes collection No.2~サラブリー県のフライングバルブ∼

フライングバルブと呼ばれる魚をご存知であろうか?
長い髭と大きな胸鰭が特徴的な小型のコイ科魚類である。
今回はそんなフライングバルブについての記事をお届けしたい。

フライングバルブ

アクアリウムの世界ではEsomus属の魚を総称して『フライングバルブ』と呼んでいる。
恐らくショップで目にする機会が多いのはEsomus danricusであろうか?(この仲間にはあまり明るくないので断定は避けさせていただくが)
彼らは稀にアクアショップで見かけることもあるが、容姿の地味さもあってかいまいちメジャーになり切れていない印象がある。
私も実際に採集するまでは地味な魚だと思っていたのだが、よく見ると非常に魅力的な魚であったので、皆様にもこの魚の魅力を少しでもお伝えできればと思っている。


サラブリー県のEsomus

この魚はタイ中央部サラブリー県の田園地帯で採集した個体である。
長い髭と特徴的な体型からEsomus属の魚であることはすぐに分かった。
恐らくEsomus metallicusであろうと思われるが、前述のとおり私はこの分野にはあまり明るくないので断定は避けさせていただく。

採集地は非常に雰囲気のある田園地帯の素掘りの用水路であった。
同所的にはスリースポットグラミーTrichopodus trichopterusやクローキンググラミー、Trichopsis vittata、デルモゲニーの1種Dermogenys cf. siamensis、プラーチョンChanna striataをはじめ、多くの水生昆虫や半陸性のカニなどが確認できた。(それらについてもいずれ当ブログで記事を書く予定である)

地味な印象のあるEsomus属であるが、採集直後は体側のラインが非常に美しく輝いており、恥ずかしながら私は一瞬パールダニオと間違えてしまった程である。
ラインだけではなくその周囲にも様々な色彩が散りばめられており、とても美しい。
飼育下でこのような色彩を引き出すことができるのかは不明であるが、大きな目や可愛らしい髭なども相まって非常に観賞価値の高い魚であると思う。
サイズも3~5㎝ほどとちょうど扱いやすい大きさである。
個人的には同所的に見られたグラミーなどの中型アナバスとの混泳水槽など味があってよいと思うのだが…。

1.23.2019

Other fishes collection No.1~タイ中部のオリジアス~

「採集で見つけたアナバス以外の魚も紹介したい!」との思いから新しいカテゴリーを立ち上げました。
アナバス以外の魚に関してはこちらで記載していきますのでよろしくお願いいたします。

さて、そんなother fishes collectionの第1回目はタイ中部に生息する小さなメダカのお話。


タイ中部のオリジアス

タイにはオリジアス属のメダカが数種生息しているが、今回はその中でもタイ中部に生息するOryzias minutillusをご紹介したい。

 私が本種を採集したのはバンコクの郊外にある湿地帯である。
キノボリウオやクローキンググラミーと同所的に生息していた。

 水面を漂うように泳いでおり、危険を感じると深場に潜っていくので、網を叩きつけるようにすると簡単に採集できる。
ただし、同属他種と同じく非常にデリケートなので、あまり乱暴に採集したり網を水から出したりすると死んでしまう。
見た目通り非常に繊細な魚である。


 採集直後の本種は腹部と眼が青とも緑ともつかぬ美しい色彩に染まっている。
これは予想なのだが、日本でも夏場に屋外で飼育してあげればこの繊細な美しさを楽しむことができるであろう(冬場は室内で加温してやらねばならないが)

日本の改良メダカも美しいが、このような野生的な美しさもまた素晴らしいものである。
今年の夏は屋外で「ちょっと変わったメダカ」を飼育してみてはいかがだろうか?

1.22.2019

Labyrinth Collection No.3~バンコク近郊のキノボリウオ~

諸事情あってしばらくはタイ遠征関係の多くの記事を書くことができないのですが、キノボリウオなら書けることに気が付いたので更新を…。
というわけで今回はバンコク近郊の湿地帯で採集したキノボリウオ(Anabas testudineus)についてのレポートである。

当種について

今回も対象種の簡単な解説からさせていただく。
当種は東南アジアに広く生息するアナバス科Anabantidae、アナバス属Anabasに分類されるバブルネストビルダーである。
「キノボリウオ」という和名はあまりにも有名であるが、実際に木に登ることはない。
現地では非常にありふれた魚であり、食用とされる。

Anabas testudineusの採集

2018年11月某日私はバンコクの郊外にて採集を行い、今回の遠征の目的であったBetta splendensの採集を果たした。
 その翌日、目的を果たして気の抜けた私はバンコク近郊の湿地帯でのんびりと釣り糸を垂れていた。

 大都会バンコクとは言え、郊外に行けばこのような美しい湿地が存在する。

 コンビニで買ったソーセージを針につけ、待っていると浮きが勢いよく沈んだ! すかさず合わせて抜きあげると、掛かっていたのは大変よい型のAnabas testudineusであった。

 アクアリウムの世界では「地味な魚」であると思われる本種も自然水域で太陽光を浴びるとここまで美しい姿になる。
 確かに色味は少ないが、暗色をベースに様々な色が入っており「Theアナバス」といった素晴らしい魚である。(アナバス属なのでTheアナバスではあるのだが、そういう話ではない)


 小型の個体も釣獲することができた。大型の個体とは体型が異なるのが面白い。


 同所的には ベタ・スプレンデンスBetta splendens クローキンググラミーTrichopsis vittata スリースポットグラミーTrichopodus trichopterus スネークスキングラミーTrichopodus pectoralis タイメダカoryzias minutillus ボララス・ウロフタルモイデスBoraras urophthalmoides などが生息していた。
(これらの魚については2019年1月現在、諸事情によりレポートが書けないので後日記事にできればと思っている)

Labyrinth Collection No.2~アユタヤ県のビッタータ~


当連載2つ目の記事は先日タイにて採集したクローキンググラミー(Trichopsis vittata)についてのレポートをお届けしたいと思う。 タイ遠征では数か所で採集したが、今回はアユタヤ県にて採集した個体群に関しての記録である。

当種について


今回も対象種の簡単な解説からさせていただく。
当種はタイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアなど東南アジアに広く生息するオスフロネムス科Osphronemidae ゴクラクギョ亜科 Macropodinae トリコプシス属Trichopsisに分類されるバブルネストビルダーである。
名前の通り威嚇音を出すことが知られている。アクアリウムの世界では古くから親しまれてきたアナバスである。
生息域の広さと止水に生息することから地域によって形態に大きな差異がみられるが、(残念なことに)アクアリウムの世界でそれらの個体群間の変異が注目されることはない。


Trichopsis vittataの採集

2018年11月某日、私はタイ王国アユタヤ県を訪れた。
本来の目的はベタ・スプレンデンス(Betta splendens)の採集であったが、残念ながら同県においてスプレンデンスを採集することは出来なかった。 しかし、帰りがけに寄った小さな止水域で当種に出会うことができた。
前回のホンコンパラダイスフィッシュ(M.hongkongensis)の時とは違い「いかにもアナバスがいそう」といった雰囲気のポイントで採集できた。 

 写真からも分かるようにゴミなどが浮いており、お世辞にも綺麗とは言えない環境である。
同所的に採集できた魚はスリースポットグラミー(Trichopodus trichopterus)のみで、餌となる生物も非常に少なそうな印象をうけたが、個体数は当種が圧倒的に多かった。
タイにおいては「アナバスのいそうな水辺」にはほぼ確実に当種が確認でき、いずれも個体数が非常に多かった。
このことから当種は環境に対する適応能力が非常に高いものと思われる。


Trichopsis vittata当種の変異について

今回タイの4県で当種を確認したが、それぞれの個体群間でかなりの変異がみられた。

  今回のアユタヤ県の個体群は尾鰭中央の鰭条のみが伸長する興味深い表現をしていた。




 帰国後に撮影した本個体群の♂。
尾鰭中央の鰭条は溶けてしまったが、大変美しい色をしている。
大きさは当種としては標準的な大きさであると感じた。(今回確認した4個体群間での比較) 残りの個体群に関しては色々な事情があるので、後日記事にできればと思っている。

Labyrinth Collection No.1~香港闘魚~

Labyrinth Collectionの1種目は香港闘魚ことMacropodus hongkongensis(マクロポーダス・ホンコンエンシス)の採集と繁殖についての記録である。

当種について

まずはこの魚についての簡単な解説をさせていただく。
 当種は香港及び、中国の一部から記録されているオスフロネムス科Osphronemidae ゴクラクギョ亜科 Macropodinae ゴクラクギョ属 Macropodus に分類されるバブルネストビルダーである。
有名な種ではパラダイスフィッシュ(タイワンキンギョ)、チョウセンブナなどが同属となる。 長らくMacropodus concolorであると思われていたが、2002年に分類が整理され、concolor種の消滅に伴い、spechti種やerythropterus種とともに別種として記載された。(erythropterus種に関してはspechti種のシノニムとして扱う動きもあるが、それはまた別の機会にお話しする。)
日本へは2009年に紹介されたとされているが、継続した輸入はない。
 今回は私が当種を採集繁殖したレポートをお届けしたい。

M.hongkongensisの採集

2017年3月某日、私は友人たちと香港を訪れた。
目的はもちろんM.hongkongensisの採集である。
様々なアクシデントはあったが、幸いなことに1度目の採集行にて当種の生息地を見つけることができた。

まず驚いたのが当種の生息環境である。
アナバスとは止水ないし流れのゆるやかな細流に生息するものだとばかり思っていたのだが、当種はかなり流れの早い河川に生息していた。
Liniparhomaloptera disparis、Candidia spilurs、Acrossocheilus beijiangensis、pseudogastromyzon myersiなどが同所的に生息していたことからもそこそこ流れのある河川であることがうかがえる。 

このような流れの強い流域で泡巣を作れるのか?という疑問を抱いたが同河川で数度観察をするうちにその答えを発見することができた。
当種は比較的流れのつよい場所にも生息しているが、繁殖期には岸辺に生えた植物(カヤツリグサの仲間?)の根元の水深が極浅い部分や岩の陰などの止水域を見つけて営巣していた。
稚魚の自然下での生態はまだ確認できておらず今後の課題である。

M.hongkongensisの飼育下繁殖

当種は非常に強健であり、基本的な飼育は同属のタイワンキンギョなどと同じで問題ないようである。
餌への反応も非常によく、様々な餌を食べてくれる。
気性が非常に荒く、複数匹を一緒に飼育すると一番強い個体以外は水槽の隅に追いやられてしまう。 
我が家での繁殖の際はロータイプの60㎝水槽を使い、雌雄判別をしていない成魚を6匹放した。 現地環境の再現のため抽水植物を用いたかったが、屋内水槽であったのでアナカリスを密に植えることで営巣のための基質を確保すると同時に弱い個体の隠れ家を作った。
最初は♀が他の個体を追いやっていたが、一度水位を大幅に下げた後1か月ほどかけてもとの水位に戻したところ♂による営巣が確認でき、その後数日で産卵。♂親は保育を開始した。(♀親は育児には参加しないようだ)
この時点で♂親への刺激となる他の個体と♀親を水槽から取り出し、安心して育児を行える環境を整えてやる。
その後数日間、稚魚はヨークサックの養分や水槽内に発生した微小生物などを食べて成長し、1週間ほどでブラインを食べられる大きさに成長するので、このタイミングで♂親と引き離し人工飼育を開始した。
この後は特に難しいこともなく成長したが、1.5㎝ほどになると小競り合いが多発したので個別飼育を開始した。

簡易的ではあるが以上が当種の繁殖の記録である。

最後に

当種は非常に魅力的な種であるが、生息地の開発などで個体数が減っているそうだ。
実際香港でも人工的に作った池に移植することで当種の個体数増加を図っているらしい。
私が採集をした河川も当種を採集したポイントのすぐ下流は三面護岸になっており、かなり危機的な状況であった。
今後もこの魚を現地で観察できることを願ってやまない。

Labyrinth Collection No.0~プロローグ~

プロローグ

アナバスマニアを自称する私には夢がある。スズキ目キノボリウオ亜目に分類される全ての記載種を自分で採集し、繁殖させることだ。
現在キノボリウオ亜目には約150種の記載種が存在する(学者によって見解が異なるため多少の変動はあるが)。
それらをすべて自分の足と目で探し出し、自分の手で採集し、自分の管理下で繁殖形態を観察することこそが私の生涯をかけた夢であり、当コーナーはその記録を残すための物である。

…と、いうわけで

そんなこんなで、このコーナーは「アナバス各種にフォーカスし、その採集と繁殖の実際を記録する」という目的で立ち上げたものです。
今まで通り採集自体のレポートは上げていきますし、某雑誌の方でもスペースを頂ける限りはレポートを掲載していただく所存でございますが、完全に趣味に振り切ったアナバスオンリーの記事はまた別で残しておきたいなぁ…と思っています。 
採集できなければ更新するネタもありませんので、超マイペース更新のコーナーになりますが、ゆるーく付き合っていただければと思います。