Labyrinth Collectionの1種目は香港闘魚こと
Macropodus hongkongensis(マクロポーダス・ホンコンエンシス)の採集と繁殖についての記録である。
当種について
まずはこの魚についての簡単な解説をさせていただく。
当種は香港及び、中国の一部から記録されているオスフロネムス科
Osphronemidae ゴクラクギョ亜科
Macropodinae ゴクラクギョ属
Macropodus に分類されるバブルネストビルダーである。
有名な種ではパラダイスフィッシュ(タイワンキンギョ)、チョウセンブナなどが同属となる。
長らく
Macropodus concolorであると思われていたが、2002年に分類が整理され、
concolor種の消滅に伴い、
spechti種や
erythropterus種とともに別種として記載された。(
erythropterus種に関しては
spechti種のシノニムとして扱う動きもあるが、それはまた別の機会にお話しする。)
日本へは2009年に紹介されたとされているが、継続した輸入はない。
今回は私が当種を採集繁殖したレポートをお届けしたい。
M.hongkongensisの採集
2017年3月某日、私は友人たちと香港を訪れた。
目的はもちろん
M.hongkongensisの採集である。
様々なアクシデントはあったが、幸いなことに1度目の採集行にて当種の生息地を見つけることができた。
まず驚いたのが当種の生息環境である。
アナバスとは止水ないし流れのゆるやかな細流に生息するものだとばかり思っていたのだが、当種はかなり流れの早い河川に生息していた。
Liniparhomaloptera disparis、Candidia spilurs、Acrossocheilus beijiangensis、pseudogastromyzon myersiなどが同所的に生息していたことからもそこそこ流れのある河川であることがうかがえる。
このような流れの強い流域で泡巣を作れるのか?という疑問を抱いたが同河川で数度観察をするうちにその答えを発見することができた。
当種は比較的流れのつよい場所にも生息しているが、繁殖期には岸辺に生えた植物(カヤツリグサの仲間?)の根元の水深が極浅い部分や岩の陰などの止水域を見つけて営巣していた。
稚魚の自然下での生態はまだ確認できておらず今後の課題である。
M.hongkongensisの飼育下繁殖
当種は非常に強健であり、基本的な飼育は同属のタイワンキンギョなどと同じで問題ないようである。
餌への反応も非常によく、様々な餌を食べてくれる。
気性が非常に荒く、複数匹を一緒に飼育すると一番強い個体以外は水槽の隅に追いやられてしまう。
我が家での繁殖の際はロータイプの60㎝水槽を使い、雌雄判別をしていない成魚を6匹放した。
現地環境の再現のため抽水植物を用いたかったが、屋内水槽であったのでアナカリスを密に植えることで営巣のための基質を確保すると同時に弱い個体の隠れ家を作った。
最初は♀が他の個体を追いやっていたが、一度水位を大幅に下げた後1か月ほどかけてもとの水位に戻したところ♂による営巣が確認でき、その後数日で産卵。♂親は保育を開始した。(♀親は育児には参加しないようだ)
この時点で♂親への刺激となる他の個体と♀親を水槽から取り出し、安心して育児を行える環境を整えてやる。
その後数日間、稚魚はヨークサックの養分や水槽内に発生した微小生物などを食べて成長し、1週間ほどでブラインを食べられる大きさに成長するので、このタイミングで♂親と引き離し人工飼育を開始した。
この後は特に難しいこともなく成長したが、1.5㎝ほどになると小競り合いが多発したので個別飼育を開始した。
簡易的ではあるが以上が当種の繁殖の記録である。
最後に
当種は非常に魅力的な種であるが、生息地の開発などで個体数が減っているそうだ。
実際香港でも人工的に作った池に移植することで当種の個体数増加を図っているらしい。
私が採集をした河川も当種を採集したポイントのすぐ下流は三面護岸になっており、かなり危機的な状況であった。
今後もこの魚を現地で観察できることを願ってやまない。